■知れば知るほど引き寄せる!妊娠力UP@基礎知識講座
実は不妊の原因として色々と免疫が関わっているではないかと言われています。典型的なものとしては抗精子抗体、不育症が挙げられます。先日、欧州生殖学会では歯周病菌が妊娠を遅らせるというオーストラリアの大学の発表も免疫が関係していると思われます。
そもそも免疫(免疫系)とは何?と言われる方もおられると思いますので解説をさせて頂きます。
免疫(免疫系)とは、生体内で病原体やがん細胞を認識して殺滅することにより生体を病気から保護する多数の機構が集積した一大機構です。身体を取り巻く環境は自分では意識していませんが、かなり過酷な世界です。病原菌やウイルスがウヨウヨいるからです。
我々は免疫機能が身体に備わっているお陰で、様々な病原菌を吸ったり、食べても平気なのです。
免疫系には様々なものがあり、複雑に入り組んでいます。このテーマで本が何百冊も出来るぐらい奥が深いと理解して頂ければと思います。
複雑であるがゆえにほとんど分かっていないテーマなので、不妊治療分野においても現在、多くの先生方がこの分野を研究されています。
さて、その中でも治療が可能な代表的なものを解説してまいります。
免疫機能において抗体というものがあります。病原菌を認識し、その病原菌が身体に入ってきたら抗体というものを作り出し、それで対抗するのです。この能力があるため、人間は一度かかった疾患には、かかり難くなるのです。そして、この能力を利用したのがワクチンです。
抗精子抗体とは、女性の身体が男性の精子を病原菌やウイルス等と同様に異物とみなし、抗体で攻撃してしまう症状です。(男性が自分の身体の中で抗精子抗体を作り、自滅することもあります。)
原因不明の長期不妊や精子通過障害(フーナーテスト不良、人工授精腑成功例)や一般精液所見から予想不能の受精障害が見られた時に抗精子抗体を疑う事になります。
不妊女性の約3%に血中精子不動化抗体が存在し,不妊男性にも約3%に射出精子上の精子結合抗体が存在することが確認されています。
●血中精子不動化抗体 とは?
抗体を測定するため、健康な精子サンプルに患者の女性(男性)から採取した血液の血清を加え、精子の動きが悪くならないか、また妨げられている場合は、その程度を調べます。
●射出精子上の精子結合抗体 とは?
抗精子抗体が結合した精子は、子宮の入り口の子宮頚管の中を子宮の奥や卵管に向かって泳いでいくことができなくなってしまいます。もし、子宮頚管を通過できたとしても、子宮の奥から卵管の中へと向かううちに精子が動かなくなってしまいます。
抗精子抗体検査は2つあります。
フーナーテストと血清による精子不動化テストです。
もともと、抗精子抗体はフーナーテストで見つかる事が多いので、フーナーテストの結果が何回受けても思わしくないような場合は、精子不動化テスト(SIT)を行う事により、判断を致します。
精子不動化テストは、女性の血液をとり、その血清の中に健康な男性の精子(分析施設が用意)を入れて様子を観察することにより陽性かどうかを判断します。
抗精子抗体が陽性の場合、治療の選択は抗体価が低い場合には人工授精が選択されます。
この場合の工夫として、2~3時間の間隔をおいて2回授精を行う反復AIHと呼ぶ方法があります。これは初回に性器管内に注入した精子,精漿による抗体の中和効果を期待するものです。
抗体価は低いけど、人工授精の反復例や抗体価が高い場合は、体外受精や顕微授精での治療が適応になります。
なぜ抗精子抗体を持ってしまうのか原因はよく分かっていません。ただ、身体に炎症やアレルギーを持っている人や強いストレス状態の人に出やすいのではないか?というドクター達のコメントをインタビューの中でよく聞きます。
※フーナーテストについては「 第11回:子宮頸管が原因の不妊症について 」で解説しています。こちらをご参照ください。
また、男性側の抗精子抗体に話を移すと、本来、男性の体の中においては、精子と自分自身の血液とは関門があって、絶対に接触しないようになっています。しかし精巣、精巣上体、精管に炎症があって、精子が直接血液と接してしまうと、抗精子抗体ができあがってしまいます。精液検査で、精子無力症や精子の凝集反応として認められます。
●精子無力症 とは?
総運動精子40%以上あるいは、前進運動精子32%以上のものを言います。 しかし、ばらつきが大きいため、診断には複数回の検査を要します。 抗精子抗体も精子無力症の原因の一つと言われています。
●精子の凝集反応 とは?
抗精子抗体には、抗精子凝集抗体と抗精子不動化抗体があります。抗精子凝集抗体には、精子の頭部と頭部をくっつてけてしまう抗体、精子の頭部と尾部、精子の尾部と尾部をくっつけしまう抗体があります。大きな精子の凝集塊を作ってしまうため、子宮内への進入が妨げられてしまい、妊娠が成立しません。
事実、精管切除術を受けた男性のほとんどで循環血中の抗精子抗体が認められ、精管再建手術後にも抗体はしばしば認められます。また、片側性あるいは両側性の精路障害(先天性または後天性)、精巣上体炎および精索静脈瘤も、精子に対する自己免疫反応を伴うことがあります。
検査は精子上の精子結合抗体を直接イムノビーズテスト(D-IBT:direct immunobeadtest)により調べます。この方法は、精子細胞膜に結合する抗精子抗体すべてを検出します。ドクターはこれらをスクリーニング検査と位置づけ、二次検査として精子の頸管粘液内通過能、および受精機能を評価し、治療方針決定の参考とします。
精子上に精子結合抗体を有する不妊男性においては、受精障害の有無が治療方針の決定因子となります。受精障害の有無を検査する方法として、ヒト精子の同種透明帯への結合能をみるHZA検査(hemizona assay)は信頼度の高い検査法の1つとして活用されています。
すなわち受精障害がなければ、他の精液所見やフーナーテストの結果に基づき人工授精の適応になります。
受精障害を確認した場合、人工授精が奏効する可能性は極めて低いため、顕微受精の適応になります。
<最後に>
今回は免疫と不妊の関係の中から、抗精子抗体について解説をさせて頂きました。
この分野はまだまだ分からない事が多く、これから研究が進む事が望まれています。
しかしながら治療法としては、体外受精や顕微授精があることで精子通過障害や受精障害があっても、妊娠に至る事が出来るのは生殖医療の進化のお陰と言っても良いかと思います。
本文中にも書きましたが、通常の免疫機能であればそのような事が起きないのに発生するのは、何らかの身体の異常があるからにほかなりません。
よって、いつも言う通り、健康の維持に努め、ストレスを軽減することは必須条件と思われます。
次回は不育症・習慣性流産について解説をしていきたいと思います。
■コラム執筆 池上文尋 氏
オールアバウト不妊症ガイドを16年に渡り担当し、これまで、日刊妊娠塾、妊娠力向上委員会や不妊治療お薬ナビ、胚培養士ドットコムなど、不妊治療に関わる多くのインターネットメディアの編集長として活躍、現在に至る。